2017年7月14日金曜日

消費税率10%引き上げのリスクは?

内閣府の景気動向指数研究会が最近の景気変動状況について審議結果を公表している。
議論いただいた結果、2014 年の状況は景気の山を設定する要件を満たさず、研究会 としては、第 15 循環の景気の谷以降、景気の山はつかなかったとの結論について全委員の意見が一致した。これを踏まえて、経済社会総合研究所長が、第 15 循環の景気の谷以降、景気の山は設定されない旨、発言した。 また、研究会の意見を踏まえ、内閣府として、景気動向指数の採用指標についても、 一致指数の採用指標の拡充等、引き続き検討していくこととした。

小生は、以前にも投稿した通り世界景気は、2014年後半以降2015年にかけて景気後退局面に入り、2016年第一四半期に底入れしたと見ている。これは2007年末にピークをつけ2008年にはリーマン危機を招いた大きな景気の山から7年を経た後の設備投資循環のピークだったと認識していることでもある。世界景気としては、だ。日本は世界景気と100パーセント共時的にシンクロして変動しているわけではない。が、それでも日本の景気は世界経済の動向に敏感に感応しやすい特性を持っているので、世界経済とは関係なくずっと長期的に景気拡大局面が続いているという判断は非現実的だと思う。


さて、安倍首相が消費税率10%引き上げ再延期を表明したのは2016年6月1日のことだ。そもそも消費税率は、まず2014年4月に5%から8%へ、2015年10月に8%から10%へ引き上げると『社会保障と税一体改革』(2012年2月17日閣議決定)の中で決められていた。2014年4月の引き上げは実施したが、2015年10年の第2段階引き上げ実施を延期していたわけである。予定では、2017年4月つまり本年4月から消費税率は8%から10%に引き上げられることになっていた。それを2019年10月まで引き上げ時期を再び2年半延期したのだった。

しかし、内閣府の景気判断は先月の景気動向指数研究会でも議論があったように、日本経済は延期を表明した2016年6月には景気拡大局面にあった。そう認識していたはずだ。にもかかわらず、必要な財政需要を措置するための税源を放棄する決定をしたのはロジックが通らない。

なるほど、昨年6月時点の日本経済は、景気判断が微妙だったとは思う。しかしながら、昨年の5月14日という時点で予測計算を投稿しているように、その時点に入手できる簡単な景気動向指数系列を用いるだけで、間もなく景気は底入れするという可能性が明瞭に見通せていたはずだ。 既に、2016年初から原油をのぞいた国際商品市況は回復への動きを示していたことも考慮すれば、2016年6月という時点で景気の先行きを心配して、2017年4月に予定されていた税率引き上げを延期するという結論を下すのはロジックが通らない。

昨年5月頃に景気分析をしていたはずの内閣府はどこをどう見ていたのか?よくわからないのだ、な。

確かに熊本地震の発生という天災要因はあったが、これはこれで対応可能であり、復興需要もまたあったわけだ。

もし本年4月に消費税率を8%から10%に引き上げていれば、引き上げ延期で実施が見送られた年金機能強化、子育て支援、介護支援も実施できたはずであり、先日の都議選でも大いにアピールできたはずだ。

もちろん、2パーセントの税率引き上げでも3月中の駆け込み需要、4月以降の反動減があったとは思う。

このトラウマが自民党にはあったのだろうが、1997年4月に実施された3%から5%への消費税率引き上げは、同年夏の「アジア危機」と重なってしまった不運があった。というより、1996年が相当の蓋然性をもって景気の山であったにもかかわらず、97年4月から税率引き上げを強行した経済財政当局に判断の無理があった。

今回の引き上げと97年の引き上げを同一に見るべきではない。

また2014年4月の5%から8%への引き上げは、景気がピークアウトする直前で実施されている(この点、政府の公式の景気判断とは違う)。1997年4月ほどではないが、時期の選択が完全に正解というわけではなかった ー というより、消費税率引き上げという戦略的な構造改革を景気循環という足元の状況に関連づけて議論するのは政治の堕落ではないかと小生は思っている。どうしても契約最終年にあたる今シーズンに優勝したくてエースに連投を強いたり猫の目打線で奇道をとる監督の場当たり戦術と相通じている。ま、とにかくも

羹に懲りて膾を吹く

消費税率引き上げにまつわるトラウマが自民党にはあるのだろう。


さて、消費税率10%引き上げだが、このまま行くと、2019年10月だそうである。しかし、小生は予測しているのだが、2014年第2四半期あたりに直近の景気の山があったとすると、次の中期循環の山は2021年前後にやってくることになる。

小生は東京五輪まで景気が続いてくれることを期待しているが、五輪後の景気崩壊をもひそかに恐れている。五輪がある2020年までは株価の変動に一喜一憂せずにもっておこうと思うのだが、2019年の後半にはそろそろ売っておいたほうがいいか。早手回しにそう思ったりもしている。株式市場は実体経済よりも先に変動するものだ。

なので、2019年10月から消費税率を引き上げたとして、引き上げ後それほどの時間がたたない内に株価が急落し、その後実体経済も落ちて行く。そんな経過をたどる可能性はかなりあるのではないか、と。それこそ1997年4月の引き上げ劇の再現になるのではないかと予想したりしている。

次の設備投資循環の後退局面は、中国経済も成熟化を深めているので、これは厳しいですぜ。深い谷になりますぜ。日本で経済政策を失敗したりすると、またまた政権交代があるかも。そんな風に考えたりもする。

ま、昨年6月の時点では「中国景気はいまだ着実とは言えないので、アジア危機再来の可能性を考えれば、消費税率引き上げ延期もやむをえない」と、そんなことを書いてはいたのだが。

長期計画は着実に実行しておくべきだった。安倍首相自らが約束したことでもなく、理にかなった戦略でもあったのだから、引き上げ後に多少の経済的波乱があっても直接の責任にはならなかった(はずだ)。今後、こんな風な後悔の念が高まるとすれば、ちょうど太平洋戦争開戦直前を思い起こすのと似て、再び『あの時、こうしていれば』の歴史的好例になるかもしれない。

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