2016年1月11日月曜日

出来なかったことの棚卸し(2): 応用化学エンジニア

アメリカの化学大手二社が統合され、近いうちに素材・農業・特殊製品の三部門に分割、上場されることになったとの報道だ。その二社とは、何と、デュポンとダウケミカルである。

これは文字通りの驚天動地。日本でいえば、かつての製鉄業界の双璧、八幡製鉄と富士製鉄が合併し、新日本製鉄になったことはあったが、あの時も独禁法をどうクリアするかで大騒動であった。とはいえ、あれは元々一つの会社であって、終戦後に分割されたものがまた一緒になるというケースだった。社風や歴史は両社で共有されていたのだな。

長い年月、ライバルとして張り合ってきた大手二社が、いくら業績が頭打ちになったからと言って、一組織に統合されシナジー効果を発揮できるものだろうか。ローカルでマイナーな例だが、日本航空と東亜国内航空の統合という失敗例もある。


デュポンといえば、何といってもナイロンである。「石油と水と空気から絹よりも軽くて丈夫な繊維ができるのです」。この世界に初めて化学繊維が登場した時の売り文句である。

ナイロンに原爆、ペニシリンを加えた三つは20世紀の三大発明と呼ばれている。それだけ世界を変えたわけである。

ジーザス・クライスト・スーパースターでは裏切り者になったイスカリオテのユダが
〽 ・・・ わたしは理解ができない~
大きな事さえしなければ~
こんなにならずにすんだの~に~
むかしのイスラエルにはテレビもないしさ
こんな風にロック調で歌い踊るのだが、宗教とは所詮は人の心と信仰の持ち方であり、物的生活とは関係なく、豊かさを実生活の中にもたらすものではない。昔のイスラエルにテレビがあったとしても、「神の子」が人々の暮らしを変えるには、おのずと限界があったはずだ。

ナイロンを発明したカロザーズは現実に世界を変えたわけであるし、その天才的エンジニアに憧れていた小生は同じく合成繊維エンジニアであった父の目にはうれしく映っていたに違いない。

最終的に、統計分析などというヤクザな、何事も作り出さない仕事で、それもまた自ら汗をかかずして教えるなどという怠惰な仕事で、世を過ごしてきた小生は、父の目から見ると落第点であろう。

これまた「出来なかったこと一覧」の有力候補だ。


それにしてもスンナリと合併してしまう海外の企業は大したものである ー と、感心していいのかという問題意識は片方であるのだが。
一方で、今回のメガ再編劇が日本の総合化学メーカーへ与える影響は、軽微にとどまりそうだ。 
SMBC日興証券の竹内忍シニアアナリストは「日本メーカーは買収対象として魅力に乏しい」と分析する。 
日本の化学メーカーも大手2強に集約が進むとはいえ、規模では海外の競合に遠く及ばない。さらに総合化学メーカーは事業内容が多岐にわたるため、M&Aでは不要な事業の切り放しが必須となるが、日本企業のリストラは簡単ではない。
(出所)東洋経済オンライン、1月11日

確かに、日本企業はちょっとした組織改編も大変だろう。

「現場のわからない本社の連中がこんなことをしていいのか!……」、とまあ、すぐにこんな風に組織が分裂状態になるのだ、な。

ただ、だからと言ってグローバル市場の僻地になってしまったかといえば、そうとは限らないかもしれない。

創業200年以上の寿命をもつ老舗企業は日本では4000社弱に達する数になるという。その大半は、規模が小さく、本業に専念し、自社技術を磨いてきた会社だ。中国はわずかに数十社であるという話をどこで聞いたか・・・、どの新聞でみたか。日本と同程度に老舗企業が多数存続している国はドイツである。どちらも偏屈で我を曲げない「職人の国」であり、ただ儲けるという提案には乗りたがらない傾向がある。

オンリーワンであれば、世界市場でも価値をもつわけだが、しかし、三菱、三井といった財閥系国内化学メーカーは、そろそろその存在価値を問われても仕方がない時機かもしれない。

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