2015年12月28日月曜日

北海道の鉄道事業: 認めるべき大前提

再びJR北海道で鉄道事故が起きた。旭川・鷹栖間にある函館本線・嵐山トンネル内で発生した火災である。寒冷地域ではトンネル内で出来た氷柱が架線に接触しないよう水を脇に流す必要性がある。天井部分にウレタンでできた漏水防止板をはりつけるのはそのためだが、ウレタンに火花が散ると燃えやすい。列車が走行する際に架線から飛ぶ火花が原因となって火災事故が起きるのはそのためだ。今度もそうであったらしい。

JR北海道では最近数年間に重大事故があいつぎ、安全管理体制には疑問符がついている。JR東日本から技術的支援を仰ぎながら改善には努力していると聞いていたが、なかなか道のりは遠いようだ。

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「道のりは遠い」と書いたが、この道はどこかの出口に通じているのだろうか。JR北海道が歩んでいる道は、実は「迷路」なのではないか。単に「迷走」しているだけではないのか。そんな視点も必要だろう。小生はへそ曲がりなのだ。

安全管理とは要するに安全のための資金投入を惜しむなということである。マージナルに資金投入を増やしたときに、マージナルに増加する収入が支出を上回るなら、安全のための支出を増やすべきである。これが経営上の基本ロジックだ。

ロジックに反した経営をすれば、経営不安につながる。

しかし、JR北海道が置かれている経営環境を考えるべきだ。安全投資をして、それが主因となって乗客数が増えるだろうか。そうは思えないのだな。では、乗客数が増えないとして収入を増やすことができるだろうか。もしJRが暮らしの中の必需財であると思う人たちがいれば、料金を引き上げれば収入は必ず増える。というか、安全とは、JRを利用する人たちのための安全なのだから、JRを特に必要としている人たちが安全コストの多くを引き受ける。それが本来の理屈だろう。

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現実には、そんな理屈は通じない。世間も政治もそんな理屈を容認はしないだろう。

北海道は広い。そして住人の密度はうすく散らばって暮らしている。鉄道走行のための一人当たりコストは高い。加えてJRが自ら負担すべき鉄道維持補修コストも高い。北海道の気象は変えようがないのだ。

そもそも北海道には純粋の私鉄はない。JR以外の経営主体があっても公営である。 公営鉄道は私鉄とはいえない。

離島的特性のある四国ですら愛媛県には「伊予鉄」(=伊予鉄道株式会社)があり、香川県には「琴電」(=高松琴平電気鉄道)がある。松山市内には伊予鉄バスも伊予鉄タクシーも走っており、都心では「いよてつ高島屋」が人を集めている。その伊予鉄の鉄道事業も松山市周辺部に限定したものである。ところが北海道には私鉄がない。ないのには理由があると考えるべきだ。

鉄道事業は十分な人口密度がなければ経営できない。
要するに、北海道で鉄道事業を経営するのは至難である。というか、石炭も樺太等北方貿易もなくなった現在、そもそも不可能なのだろう。

JR北海道が安全のために十分な支出ができないのは、安全のために費用を負担しても収入につながらない「不採算路線」が多いからである。そのため、収入を期待できる都市型事業に資金を投入せざるをえない。そこで得る利益で鉄道事業を維持するためだ。その都市型事業も競合他社との競争を避けられない。故に、鉄道事業の安全が不十分になるのだ。このような経営をしている企業は最終的には必ず破綻する。

JR北海道の安全面での弱さは、努力不足ではなく、論理的な結果である。
逆に言えば、鉄道の安全を十分に確保する経営を行うなら、JR北海道は経営不安に陥る可能性がある。

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  1. 安全を重視したいなら、主要路線以外の路線を低コストのバスに切り替えるのがロジックだ。厳冬期にも安全な道路を整備するのは国と道である。
  2. 北海道全域の鉄道路線を死守するのであれば、料金を引き上げ増収をはかる。
  3. 料金引き上げによる増収が難しいなら、安全をその分犠牲にせざるをえない。
  4. JRの鉄道路線は北海道の公共財だと考えるなら、財政資金を投入するべきである。

選択肢はこの他には考えられないと思うのだ、な。

ただし、既存の発想をくつがえすようなイノベーションは考慮していない。

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