2015年5月6日水曜日

高齢層・低幸福度のパズル

日本経済新聞の『経済教室』欄はゼミの教材、講義の話題、入試問題作問の素材等々、大学にいる人間にとっては実に多用途に使える便利な存在だ。実は、その下で連載されている「やさしい経済学」も多くのファンがいるに違いない。最近のテーマは「幸福度」である。横浜市大の白石小百合氏が執筆している。

たとえば世帯の収入合計が増えると幸福度は傾向として上がる。この点には誰もが納得できる。結婚している人は独身の人よりも平均的には幸福度が上がる傾向にある。ふ〜む、そうですか、そうなんだろうね、と。中々面白い。

では年齢が上がるにつれて幸福度はどうなるか?

海外では、若い時分に幸福度は高く、その後はいったん低下した後、齢をとってからは再び幸福度が上がる。そんな「U字型」幸福度というパターンが当てはまっている。ところが、日本ではそうはならず、年齢とともに単調に幸福度が下がっている。これは何故か?
大阪大学の研究グループの調査によると、日本ではU字型ではなく、高齢になるほど幸福度が下がるという結果になっています。既婚者の幸福度は未婚者より高いということは各国共通の現象です。
(出所)日本経済新聞、2015年5月6日

高齢層は実は所得不平等度が最も高くなる年齢層である。資産不平等度も同じく最高にある。一般に不平等な境遇にあるとき人は不幸になる。そんな普遍的事実の反映であるかもしれない。しかし、高齢層で不平等度が上がるのは、生涯を通じた競争の結果である面があり、故に世界的に観察できる共通の事実である。それでも、海外の高齢者は満足して幸福度の高い人生をおくっている。これは何故か?

「団塊の世代」という世代固有の属性による。これが提案したい仮説だ。以前にも本ブログに「高齢化社会、その光と陰」というテーマで書いたことがある。大元は内閣府のDPである。
図をクリックして拡大してご覧頂きたいのだが、青い矢印はいわゆる<団塊世代>の満足感であって、上図全体としては各年齢層の満足感がどのようであったかという中で、団塊世代の数字がどのように推移してきたかを伝えている。そんなグラフなのである。 
これを見ると、時代を通して、団塊世代が生活満足感のボトムを一貫して形成している。他の世代は、団塊世代よりは高い満足を感じながら暮らしている。そんな事情が見て取れるだろう。面白くもあるが、やっぱりなあ、そんな感懐も覚えるのだ。
いま少子高齢化の中で高齢者の比率が非常に高くなりつつあるのだが、その高齢者の中で団塊世代の人たちが増えてきている。その人達が持っている低い満足感が社会全体の満足感を決定しつつある。そんな事情もあると思われる。
(出所)本ブログ、2011年7月12日

故に、現在の日本で観察される年齢別の幸福度は一過性の現象であり、時間の経過とともに海外で共通に認められるパターンに回帰していくものと予想する。

この予想はかなり確度が高いと思うが、それでもなお残るのは「団塊の世代で幸福度が下がるのは何故か」という疑問である。

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