2014年9月14日日曜日

「反・高校義務教育化」の試論

現在の日本では高校進学率が90%超、大学進学率も50%水準に達している。高等教育というと大学学部というより大学院教育に重点がシフトして既に何年もたっている。

こういう事情は、ある程度先進国には共通の現象であり、そこから義務教育延長論も出てきているわけだ。どうせ高校にいくなら、最初から義務教育化して、学費を公的に負担すればどうかという政策である。

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今日は敢えて「反・高校義務教育化」のロジックはあるかという点をメモしておこう。

いま某TV局のバラエティ番組をみながら遅い朝食をとっているのだが、教育目的=所得力向上ということで割り切るなら、高校まで義務教育にして、若者を束縛する必要性はないと思う。

そもそも義務教育そのものの存在価値をゼロベースから再考察しないといけない。「義務教育」にはそれ自体として価値があるわけではないからだ。

江戸時代の日本の識字率は、外国と比べても大変高いレベルに達していたが、何もオカミが教育政策を展開したからではない。教育に時間を割くモティベーションには、ある意味「ネットワーク依存性」、というか「同調への動機」があるので、文字を読める人が増えてくれば、自分も文字を勉強しておく方が、毎日が面白いし、いい仕事にもつけるわけである。だから、生活水準が向上して、生活にゆとりが生まれてくると、言われずとも自然発生的に教育が国民の間に普及するものである。教育コストは、重過ぎることなく、軽過ぎることもなく、人々がもっともやりやすい水準に自然におさまる。民間に寺子屋や塾が自然に増えてきたのは、人為的にそうしたわけではなく、日本社会の発展の中で当然にそうなったわけだ。教育は、上から下へ義務づけるものではなく、衣食住を豊かにしたい人々の中から自然に生まれて来る。ここをまず見るべきだと思う―国民を無知の状態にしておく方が政治的安定性をもたらすと考える専制国家もありうるし、現にユーラシア大陸にはあったが、それは又別の問題だ。

こんな風に考えると、小生が思うのは、中学教育だけでも相当高度の事柄を教えている。方程式も二次方程式、連立方程式まで教えている。いまの義務教育の範囲で、鶴亀算などは誰でもが簡単に答えが出せなければならない。英語もそうである。中学レベルの英語が、100パーセント読んで、書けて、話せて、聴けるなら、現代社会で普通に暮らしていくには十分であると思う―もちろんビジネス交渉をするには、より高い英語力に加えて、論理的なインテリジェンスが必要だ。

国語もそう、理科もそう、社会もそう、音楽も美術もそうだ。思うのだが、高校義務教育化の背後には中学教育がうまく行っていない、落ちこぼれる生徒が増えている。それを小中学校で問題解決できないので、高校で解決しようと。そんな底意がすけて見えるような気がするのだな。この種の問題を、中学校から高校へ、外延的に延長するだけでは学校システム全体に問題を拡散させるだけである。

おそらく社会性に欠ける若者が増えている(ような印象がある)ので、学校教育に期待する向きがあるのだろうが、それは逆である。学校は<リアルな社会>ではない。学校に長期間いればいるほど、その人の意識・行動は実社会から隔離され、<バーチャルな社会>に最適化されてしまうものだ。

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小生、中学校も義務教育とする必要性はうすいと思っている。率直に言って、少年期から過剰教育になっている。国民の<共有知>は12歳までに全て確実に伝えることが出来るはずである。できないのは、しないからではないかと小生は疑っている。小学校教育の完成が問題のコアだと思う。小学校から中学校に、中学校から高校へ、未解決の問題をパスでつないでも学校システムでは解決困難である。これが現実ではないか。

それでなくとも今後の日本では、労働力人口が減少し、賃金が高止まりする確率が高い。小学校を卒業した段階で、教育で束縛することはせず、やりたい仕事を始めていくのがよいと思う。実社会が最良の学校である。自分が社会に貢献し、自ら生きていけることを認識することは、人生において大変大事なことである。

もちろん小学校教育をきちんと受けていることを証明する何らかの形のテストはいるだろう。落ちこぼれてはいけない小学校教育をきちんと受けておく。この点を徹底するだけで、日本の公的教育システムは改善されると思われる。

未成年期の所得と保護者との関係。課税するのか、将来のために積み立てさせるのか。年金保険料の納付等々、詰めるべき論点は多い。結論を出すのは難しいだろう。しかし、『教育はよいことだ。より多くの教育を受けられるようにするべきだ。故に、高校を義務教育化するのはよいことだ』。こんな単純な三段論法では、いまの現実はとらえきれまい。先入観を排してゼロベースから考える。これが大事ではないだろうか。

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昼過ぎ、近くの家電販売店でストーブを買い替える。いま使っているサンデンの技術を継承した岩手県・サンポット製「ゼータスイング」にする。相変わらず無骨なデザインだ。それにしてもいつの間にかサンポットは長府製作所の子会社になっていた。これは知らなんだ。調べてみると、サンデンは自動車用エアコンや自動販売機に集中するため2007年にストーブ(ゼータスイング)事業をサンポット社に売却した。サンポット社は同じ年に長府製作所に公開TOBを仕掛けられ上場廃止になった。翌年には石油ボイラーの生産設備もサンデンから長府製作所に譲渡された。どうも察するに、全体が長府製作所のM&A戦略であったのかと……。大変に面白い。勤務先の授業でケースとして使えそうだ。


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