2014年3月25日火曜日

自由資本主義 vs 国家資本主義

このところの産經新聞の論調は「右」だというには余りに右で、「これは極右か」と感じることもしばしばであったが、中には良い筋をついているコラム記事が載ることもある。
 筆者は、NATO(北大西洋条約機構)に倣う体裁で、日米同盟を軸にして豪印両国や東南アジア諸国を加えた「アジア・太平洋版NATO」の結成を提唱してきた。故に、筆者は、石破幹事長の発言が同じ政策志向を示している限りは、それを歓迎する。
……
第1に、この構想は、「自由、繁栄、法の支配、人権の擁護」を趣旨とする、戦後国際秩序の尊重の上に立つものである。故に、この構想が対中牽制(けんせい)の趣を持つものになるかどうかは、中国の対応によってもたらされる結果でしかない。
 中国政府は、「戦後国際秩序の尊重」を掲げて対日批判に及んでいるけれども、彼らの政策志向においては、「自由、繁栄、法の支配、人権の擁護」といった価値観は、どこまで実の伴ったものになっているのか。日本にとっては、「アジア・太平洋版NATO」結成への努力は、こうした価値観の意義を確認することと軌を一にしている。
(出所)MSN産経、2014年3月25日 、櫻田淳「正論−アジア版NATOは西独に学べ」

確かに外から観察していると、日本の戦略は日本、東南アジア、インド、オーストラリア、アメリカと、海洋沿いに並ぶ自由民主主義国家と連合して、中国・ロシアというユーラシア内陸国家と対抗しようとするものである(ように見える)。こういう意図があるのだろうなあ、とは相当程度まで「見え見え」なのだな。日本が中国との対抗軸を形成しようとするなら、そんな発想になるのは極めて自然なことだ—だから相手からも予想しやすいし対抗策もつくりやすいのだが。

中国は、口では平和的台頭を唱え、経済制度には自由資本主義的要素を広く導入して発展を続けていながら、根本的価値観としては「自由」よりも「国威」を重視していることは自明であろう。価値観を共有するか否かという一線で、中国との協調の在り方は大きく異なることになる。

大事な点は、自由資本主義の目指す理念が国民個人の幸福と利益の増進にあるのに対して、中国の国家資本主義では何よりも国益、いや国益そのものというより共産党の利益を「国益」と呼んでいることだろう。よく「米中の新たな大国関係」と言われているが、アメリカの国益がアメリカ国民の集合利益を意味しているのに対して、中国の国益は、中国国民というより中国共産党の利益を指す。これは共産党という「政治結社」の成立過程とその目的からして明らかだろう—共産党が追求する国威(≒党益)と中国ナショナリズムとが結合している箇所もあるから単純な割り切りは大変危険だが。

「価値観の共有」という一線を日本側が引けば、それは反・共産党であるのと変わらず、そこで中国は「旧敗戦国が何を言うか」と歴史的観点から日本に対抗するのである。もしも日本が経済的な共同利益を目標として、価値観の共有には固執しないと言い出せば、中国は融和的な対日姿勢に転じるだろうことは確実である。それが中国共産党の利益に最も適うからだ。しかし、日本のこの選択が中国国民の文字通りの利益に適うかとなると、必ずしもそうは言えまい。

いずれにしても、米国のホンネは「共産党なき中国」との協調と交流にあるのは間違いない。それ故、現在の中国との間で日本(そして、東南アジア、豪州まで?)が、対中経済関係を深め、価値観までも中国との親和的路線にシフトしていくとなると、それはアメリカの安全保障を毀損すると判断され、そのような事態は許容できないはずである。つまり、日本は冒険的対米外交を採りたくないなら「価値観の共有」を言い続けざるを得ない。そうなると中国にとって日本は、価値観を共有しない目の前の潜在的敵対国であり、しかも攻勢的姿勢をとる歴史的正当性も中国の側にある。

このように見ると、米中の二大国が、自由や民主主義といった価値観を互いに相対化できない間は、中国はまず日本をたたく戦略から得られる利益が高く、コストも低いわけであり、その日本をアメリカが支援しようとすれば、「戦後国際秩序の尊重」を主張するという有効な対抗策が手元にあるのだ。それに対して、アメリカはまだ成案をもっていないと思われ、アメリカの戦略的劣勢が確かにここに一つある。つまり、近年の中国の姿勢を中国にとって最適戦略としているのはアメリカの戦略的不備である。そうなるのではないか。

確かに、上の記事が引用部分のすぐ後で主張しているような韓国の「不実な二股外交」を日本がいま採っているわけではない。しかし、日本も採らざるを得ないような強烈な圧力を中国が加えていることは確かだ。そして、このような情勢は(特に大きな政治的変化がない限り)向こう10年かそれ以上の間、人口構造や移民政策など基本的要素が変わらない限り、ずっと続くことが予想される。

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