2013年7月13日土曜日

この相続課税は道理に合わぬ

こんな速報があった。
シルクロードを描き続けた日本画家で文化勲章受章者の故平山郁夫氏の妻、美知子氏(87)が、相続財産から現金約2億円を除外して申告したとして、東京国税局から遺産隠しを指摘されていたことが、関係者の話でわかった。
(中略)
平山氏の関係者の話などによると、2009年12月、脳梗塞のため79歳で死去した平山氏の遺産のうち、絵画など約9億円相当の美術品や、アトリエなどに使われていた約2億3000万円相当の土地・建物など計約11億4000万円分は、公益財団法人「平山郁夫シルクロード美術館」(神奈川県鎌倉市)に寄付され、非課税となった。同財団代表理事の美知子氏は、鎌倉市の自宅を長男と2分の1ずつ相続したなどとして、翌10年に税務申告したという。
しかし、12年に行われた税務調査で、平山氏の死後、自宅の洋服ダンスにあった紙袋の中から現金が見つかるなどしていたにもかかわらず、美知子氏がこうした現金計約2億円を申告から除外していたことが発覚したという。現金は平山氏が絵画などを売却した際に得た収入だったとみられる。
(出所)読売新聞、2013年7月13日08時00分
先日、小生が親しくしている損害保険代理店の経営者の方と雑談する機会があった。その時にも上と類似の話しをしたばかりだ。やはり亡くなった会社社長の未亡人から電話があって「困ったことが起きた」という。行くと押し入れの中の鞄から現金が出てきたというのだ。数えると▲▲千万円の札束があった。多分、自分がいなくなった後の妻の暮らしを案じて、ご主人がしまっておかれたのでしょう、と。いつからあったのかは分からないという。「他にこういうのはありませんか?家の中を全部調べましたか?」そう聞くと、二階は見たことがない。二階にも押し入れがあるからあるかもしれないという。このご夫人は80歳近い年齢で子息もいるのだが、時たま訪れるだけであるという。相続手続きをすませた後の現金なので、面倒になるということであった。ご夫人の印象も甚だ悪いというのだな。迷惑でもあろうし、気の毒でもある。

それにしても、上の記事がしらせている事情だが、ちょっと酷くはないか。

絵画を売却すれば、カネはもらうが、作品は世に出る。世間は作品を得るかわりに、夫人は生計費を得る。道理にかなっている。絵画を美術館に寄付をすれば免税で、カネなら税をとるというなら、売った見返りのカネも美術館に寄付をすれば免税とする理屈だ。遺された美術作品は遺族のものではないという思想がそこにはある。しかし、画伯が遺した美術作品は、まずは<全て>人生をともにした夫人の所有とするのが筋ではないだろうか。夫の遺した美術作品は、「社会のものだから社会に返しなさい」という権利が、正当だと言う論理はあるのだろうか。いま、カミさんとそんな話しをしたばかりだ。

絵画作品の<原価=制作コスト>などたかが知れている。市場価値があると騒いでいるのは社会の方だ。市場価値がない三流画伯の妻は気楽だが、「価値がある」と社会が勝手に騒いで、一流画家の未亡人に限って大枚のカネを払えと命令するのはヤリ過ギではないか。芸術家は、土地や工場など転用可能な生産要素を占有してきたわけではなく、大量の資源を費やしてきたわけでもなく、人を使ってきたわけでもない。社会に返すべきものを使ってきたわけではない。無から有を生み出したようなものだ。遺された作品は、遺族にとっては何よりも夫を、父を、母を、親しい家族を偲ぶよすがであって、他には代えられないものだ。一流だからといって、社会が遺族から没収する道理はない。

優れた美術作品を社会に還元するのが社会的利益であるというなら、寄付をさせるのではなく、遺族に市場価格を支払って、国家が買い上げるべきだろう。

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