2012年3月23日金曜日

コンドラチェフの超長期循環?日本は例外であってほしい

英紙TelegraphにJeremy Warner氏による興味深いコラム記事が載っている。コンドラチェフ循環に沿って考えれば、これから何年もの間、下降局面が続く可能性があるという。コンドラチェエフ循環というのは、周期が50~60年に及ぶ超長期循環として知られている。
Subsequent students of Kondratieff cycles have placed the end of this third cycle during or shortly after the Second World War, which seems logical enough, and have identified a further two cycles thereafter, with the fifth upswing beginning in the 1980s and ending with the current crisis. On past durations, we are now in a downswing phase lasting anything between ten and forty one years. Dating the beginning of the crisis from 2008, that's between five and thirty six years to go (See table below).(Source: The Telegraph, Friday 23 March 2012)



上の表から分かるように、直近の上昇局面は1980年代半ばに始まり、その終焉がリーマン危機である。コンドラチェフの超長期循環の背後にあるのは、技術革新であると言われている。例えば1940年代に始まった上昇局面を主導したのは、何と言っても自動車産業だ。オートモーバイル革命が戦後の世界景気、経済発展をずっと支え続けてきた、というと余りに印象的・象徴的に過ぎるだろうか。その伝で言うと、直近の好景気は、言うまでもなく、インターネット革命であったことに異論は少ないはずだ。"ICT"ととも俗称されるようにネットワークとコミュニケーションが主導した第何次かの産業革命であったわけだ。

しかし、待てよっと・・・・上の表に基づいて予想すると、リーマン危機後の長期停滞はこれから多分20年とか30年程度は続く計算になる。日本は、そもそも1980年代半ば以降、というか日本のバブル崩壊以降に本格化したIT革命、それによる世界景気の長期上昇局面に同調せずじまいであった。それが、「これからIT革命一巡に伴って20年~30年の長期停滞局面に移りますから」と言われてしまっては、われわれ日本人としては<失われた20年>は一体何であったのですかと、血涙ともに下る愁嘆場と化そう。いやいや、日本経済に対しては上のコンドラチェフ超長期循環は当てはまらないはずである、というかそう思いたい。

実際、こんな点にもワ氏は言及している。
Well maybe, but research by Andrey Korotayev and Sergey Tsirel published by the University of California on its eScholarship website suggests that there is indeed some correlation between the long K-cycle and world GDP. 
However, somewhat confusingly, their analysis suggests two interpretations of the current global economic crisis. One is that it doesn't mark the start of the fifth Kondratieff downswing at all, but can be interpreted as a temporary depression between two peaks on the upswing, where the second peak may even exceed the first. On this interpretation, the big meltdown doesn't begin until 2018-2020 (memo to self: liquidate all positions by 2020).
2020年前後までは長期上昇局面だというわけだ。しかし、最後には以下の指摘を行なっている。
However, there is also quite a bit of evidence to suggest that the current financial crisis does indeed mark the start of the downswing. Given that this is not a normal recession, but a downturn caused by an all-embracing banking crisis, 2008-2010 seems the more likely inflection point. It also correlates quite closely with the separate "40 year rule", an old piece of Wall Street folklore which has it that really serious banking crises only happen once every forty years because this is how long it takes for all institutional recollection of the last one completely to die out, allowing the new generation of banking hotheads to let rip once more.
金融市場の<40年ルール>だ、な。要するに、大恐慌から40年経った頃に一度変調になり ― ベトナム戦争泥沼化と米政府による大砲もバターもという偉大な国家政策でついには石油危機につながった時代だ ― さらに40年経った頃にリーマン危機がやってきた。しばらくは<あつものに懲りてナマスをふく>という状態が続くだろうという格言だ。

これは寺田寅彦の天災観と合い通じる見方でもある。例えば『津波と人間』では、
災害直後時を移さず政府各方面の官吏、各新聞記者、各方面の学者が駆付けて詳細な調査をする。そうして周到な津浪災害予防案が考究され、発表され、その実行が奨励されるであろう。
さて、それから更に三十七年経ったとする。その時には、今度の津浪を調べた役人、学者、新聞記者は大抵もう故人となっているか、さもなくとも世間からは隠退している。そうして、今回の津浪の時に働き盛り分別盛りであった当該地方の人々も同様である。そうして災害当時まだ物心のつくか付かぬであった人達が、その今から三十七年後の地方の中堅人士となっているのである。三十七年と云えば大して長くも聞こえないが、日数にすれば一万三千五百五日である。その間に朝日夕日は一万三千五百五回ずつ平和な浜辺の平均水準線に近い波打際を照らすのである。津浪に懲りて、はじめは高い処だけに住居を移していても、五年たち、十年たち、十五年二十年とたつ間には、やはりいつともなく低い処を求めて人口は移って行くであろう。そうして運命の一万数千日の終りの日が忍びやかに近づくのである。鉄砲の音に驚いて立った海猫が、いつの間にかまた寄って来るのと本質的の区別はないのである。
 鉄砲の音に驚いて逃げていた鳥がまた集まってくる現象にたとえている。いまは、まあ、まだ怖くてリスクに挑戦できない状態であるわけだ。状態が遷移するには、はっきりと覚えている人が大体は死んでしまう時間が必要ということだ。それが20年とか30年になる。

どうも日本経済にとっては暗い話になる。みんなが好景気を謳歌して、思いっきり盛り上がっていた頃、日本にもやりようによってはチャンスがあったのに、智慧が足らなくて波に乗れず、そしていま波自体が引き潮になってきた・・・もしそうなら、天は我らを見放したか、と。『八甲田山死の彷徨』(新田次郎)の世界になる。

まあ、コンドラチェエフ循環自体は、統計分析的に本当に確認されている景気循環とは(まだ)いえない。それでも何となく心配で心がざわついてくるようなコラム記事ではないか。

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