2012年2月12日日曜日

日曜日の話し(2/12)

昨晩出席した結婚披露宴で隣席にいたのは、小生のサラリーマン時代の先輩であり、現在はある英系商社の再生可能エネルギー事業の統括CEOをしている。

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「世紀末の閉塞状況にあって、ウィーンではなおかつあれだけの爛熟した文明の華が咲いた。すごいと思うんですよね。クリムトなど、確かに頽廃してますが、いまだに人を魅惑します。不健康でもそこで美を創ってます。同じ閉塞状況にある今の日本に文明はあるでしょうか?」

「日本にも生まれつつあると思うよ。俺もクリムトは好きなんだ。だけど初めに凝ったのはラファエル前派だ、な。ロセッティも真物を観たよ。」

Rosseti, Alexa Wilding, 1868

ラファエル前派は<イギリス分離派>とも言える芸術運動である。様式化・完成化されたルネサンスのラファエロ以前へ遡る<原点回帰運動>である。原初ルネサンス、いやそれ以前の中世の美を再認識したのはラファエル前派である。運動はフランス印象派やドイツ表現主義よりもずっと早い1848年、ロセッテイなどが旗揚げして始まった。この年はフランス2月革命、ドイツ・オーストリア3月革命の年にあたる。ナポレオン戦争後の欧州保守体制は完全に瓦解した。

Rosseti, Rossovestita, 1850
上と同サイトから

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その頃まで、ウィーンの街は小市民的なビーダーマイヤー文化の中にいた — 音楽家シューベルトはその代表である。クリムトもシューベルトを画題にしている。ラファエル前派は古典的様式を捨てて自然に回帰する運動であり、作画法としては自然の細密描写へと向かった。ありのままの自然へ回帰する精神は後のフランス印象主義につながる。この点、美は自己の内心にあると考える独墺の分離派とはベクトルが違う。ここが面白い。ラファエル前派は夏目漱石の作品にも頻繁に登場する。「草枕」でミレーのオフィーリヤが出てくるが、こちらはジョン・エバレット・ミレーでラファエル前派の仲間である。

ミレー、オフィーリア、1852年

ただ漱石が趣味に描いたのは水彩画のようでもあり、俳画のようでもある。草枕の主人公である画家も油の匂いを語ってはいないので、持参したのは水彩画具のはずだ。いま手元でパラパラと全集第2巻の頁を繰って確かめようとしたが定かではない。そのかわり、画家が温泉に向かう途中、峠で雨宿りをした時の句が目に入ったので、書き留めておくことにする。
春風や 惟然が耳に 馬の鈴

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