2011年12月17日土曜日

年金=ねずみ講、つまり年金=空手形、とな?

ロイターが橋下徹次期大阪市長の発言を次のように報じている:
大阪市長に就任する「大阪維新の会」の橋下徹代表は17日、大阪市で民放番組に出演し、国の年金制度について「根本的に変えないといけない。ねずみ講そのものだ」と批判した。終了後、記者団に「現役世代に対する完全犯罪。継ぎはぎの、ばんそうこうの手当てみたいなやり方では絶対に持たない」と述べ、現在の賦課方式から積立方式に変える必要性を強調した。「なぜ政治家が(それを)感じないか」と不満も漏らした。(12月17日00:25配信)
ねずみ講の参加者は、これは得だと思って参加する。しかし、無限に会員が増えないと、いつか必ず行き詰まる。支払うカネと受け取るカネがつりあう仕掛けがそもそもないのだから、必ず破産するわけであり、払ったカネは戻っては来ない。

現在の公的年金制度が「ねずみ講」であるという形容が、文字通り正確であるとは考えられず、橋下氏も当然そのくらいのことは分かっているはずである。つまり、上の発言は政治的発言 - 政治家が政治的発言をするのは当然だ - であって、国民の意識に影響を与える、意識を変えようという意図をもって、発言していることは明らかだ。

同氏の政治手法は過剰に扇情的であると感じてきた小生は、同氏を支持しようとは思わない。思わないが、上の発言ばかりは「本筋をついた議論を仕掛けてきましたねえ」と、感嘆の念を禁じ得ない。

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公的年金には二つの側面がある。一つは強制貯蓄という側面、もう一つは老後の生存権の保障である。貯蓄という面に着目すれば、年金給付は貯蓄の取崩しになるから、契約者全体としては、支払った年金保険料を超える年金は受給できない。年金はあくまでも保険であり、早く死ぬ人がおさめた保険料で長生きする人の年金を捻出するのだ。他方、生存権の保障という面に着目すれば、それは日本国憲法第25条で規定する生存権と、国による保障の議論になる。このことと第14条が定める<法の下の平等>をあわせ考えると、すべての国民は老後の生活水準を保障してもらうために等しく年金という形で生活の糧を支給されることを期待してよい。

あとの生存権の保障については、社会保障政策全体の中では生活保護政策がそれに該当するので、現行の公的年金の主たる目的は、老後の生活を国が保障するというより、制度に基づく<強制貯蓄>である。そう考えないと制度を運営できないのじゃないかと小生は思っている。

デフレによる年金減額に年金受給者が反発していると報じられたが、それは自らが支払った年金保険料は金額として確定しているのであり、デフレでその残高が減少したとは認識していないからである。貯蓄した残高を取り崩すのが年金であると解釈すれば、デフレだから年金を減額するべきだという結論は出ては来ない。

しかし、年金=強制貯蓄だと考えるのであれば、支払った年金保険料を越えて年金を受けとる契約者集団がある場合は、速やかにそれを是正するべきである。当然そうなるわけだ。日本では世代間不平等が以前から指摘されており、その世代間格差をこそ、可及的速やかに解消しなければならないという政策選択になる。この当たり前のことができないのは、既に年金給付に税収入が投入されており、公的年金は貯蓄であると同時に、社会保障でもあると認識されているからだ。もともと曖昧であったのが日本の公的年金制度だが、その理念と目的は誰にも分からなくなってきている。

税を投入する国の行政として年金制度を運営するのであれば、全て受給資格を有する国民は既往履歴とは関係なく、等しく処遇されるべきであろう。すべて税でまかなう基礎年金がそれにあたる。一方、基礎年金を超えた年金部分は貯蓄の取崩しと見るべきだ。だとすれば、貯蓄した金額に応じて年金を受け取るのは当然である。この2階部分は、本当は必要最低限の制度設計にしておき、一層の年金増額を希望するなら民間保険会社が提供する年金保険商品を利用する道を残しておくべきである。現在の公的保険は、税(=社会保障コスト)と保険料(=貯蓄)の両方がごった煮状態で、文字通りの<年金なべ>になっている。そして、国民の多くが、税も貯蓄も含めた全体で<結果の平等>を求めている。これでは絶対に、永遠に、社会的合意は形成されないだろう。

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小生自身は、国は1階部分の基礎年金だけにコミットするべきだと思っている。2階より上の年金の設計には国は関与しないという原則を貫けば、公的年金をとりまく事情はずいぶん透明なものになるだろう。もちろん2階より上の部分に現在のような<強制貯蓄>制度を設けてもよい。その場合、一つの契約者集団を一つの世代、あるいは一つの職域、一つの地域等々と定義するのであろうが、具体的にどのような強制貯蓄契約をどのような団体が運営するのか。同一人物が、ある職域保険に入り、ある地域保険に入り、更にある世代集団に属する。こんな重複契約もあるのか。こうした問題はオペレーション上の課題として残るに違いない。

公務員の年金と民間の厚生年金の違いは、共済組合に税が追加投入されていることで可能になっている面があり、そうであれば給与の遅延支払い、もっと平たく言えば公務員年金と民間年金との差額は<隠れ給与>とも認定できるかもしれない。給与と年金を一体化した定量評価も行わなければならないことの一つだろう。

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