2011年10月26日水曜日

賃金を下げても製造業の流出スピードは変わらないだろう

日銀が追加的金融緩和を検討中とのこと。アメリカも第3次量的緩和政策(QE3)に動くかもしれない。「市場では債務問題の抜本解決は難しいという見方がでている」、日経ではそう報道しているが、これはずいぶん前から出ていた見方だ。世界はどうやら協調的金融緩和政策(Concerted Expansionary Monetary Policy)に向かっているようだ。

但し、政府・日銀の政策対応からは、協調的(Concerted)というより、寧ろ従属的(Dependent)という形容詞が当てはまる匂いがする。そう感じるのは小生だけか?日本の対応が先読み可能なら、アメリカ、ヨーロッパは日本の行動を自らの利益拡大に利用するだろう。従属的な政策選択をするよりは、迷走状態にあって日本の判断がアメリカやヨーロッパからは明確に読めない。まだそんな状態にとどまるほうが、結果として日本のためにはなるだろう。状況に対応ばかりしていると、その行動パターンを利用されてしまうということだ。とはいえ、今の政府が戦略的目的をもって先手をとっていくはずがない。情けなくもあるが、現在の民主党政権にできることは、せいぜい現在のように百家争鳴のままでいることだ。そんな風にも思われるのですな。TPP論議もその例だ。

しかしながら、金融政策とは詰まるところマネーをどのように供給するかに過ぎない。そのマネーも決済のためのペーパーマネーである。ペーパーマネーを増やせば、真の意味で総需要が増え、企業の利益が上がり、技術進歩が促進され、投資が増え成長が加速し、失業率が下がる。そう考える人と、絶対にそうはならないと考える人がいる。考えない人は、ペーパーマネー拡大に伴う副作用を最も警戒するだろう。効き目がない薬だと思っていれば、その薬の副作用を真っさきに心配するものだから。しかし、ペーパーマネー拡大が、真の意味で経済成長をもたらすこともありうる。それも10年から20年単位で。小生はその可能性を否定しない。但し、インフレにコミットしなければならない。金は、中央銀行・政府の思惑とは別に、金鉱山が発見されれば必ず増えた。しかし管理通貨は中央銀行の裁量で増えるしかない。インフレは物価安定ではなく、物価不安定だから、中央銀行がインフレにコミットすることはできないだろう。政府にだけ可能だ。しかし、政府に金融政策の基本的方針を決定する権限はない。

日本のデフレは構造に組み込まれている現象だ。デフレが進む時、円高になっていなければ、それは名目国民所得の低下でしかない。しかし、日本のデフレは円高を誘発している。国際通貨で測った名目所得は低下してはいない。この時、日本のヒトと資本が割高に、海外のヒトと資本が割安になる。だから生産活動はより安い生産要素がある海外に移動する。だから海外の生産は上がり、海外の所得が増える。しかし同時に、国際通貨で測った日本の所得も増えている。増えた海外の生産活動は、海外市場だけではなく、実質所得が増大した日本で買い支えられる結果となる。何を、どこで、誰のために、どのように製造して販売するかは、企業の経営現場で選択するのが最適である。日本には管理・中枢部門が残り、それに必要な高度の対企業サービス商品が登場するのは、時代の流れである。

円高が進む製造業において競争力確保のためだけに賃金を引き下げる。それに並行して公務員の給与も下げる。それをやっても、物価が更に下がり、円高を誘発するだけである。実質金利が低下せず事業投資も増えないだろう。利益の発生は、投入価格と産出価格の間の交易条件こそ決定要因だ。ミクロの経営現場が顧客評価の高いものを提供することでしか利益は得られない。全般に、モノの顧客評価が割安になっているなら、モノ以外の顧客評価は割高になっているというロジックだ。いま日本のするべきことは、賃金を下げて安いモノを販売することではない。高くても売れるモノ、高くても必要とされるサービスを提供することだ。たとえ、それが格差拡大を是認するような富裕層向けのビジネスであっても、その事業が拡大し、そこで若年層の就業機会が拡大していくようなら、それでいいではないか。そうすれば、高齢者が子弟の将来のために保有しているマネーが購買力として日本国内に顕在化するだろう。これがひいては格差拡大を解消すると考えられないのだろうか?

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