2011年10月10日月曜日

日銀は王より飛車をかわいがっているのか?

デフレは円ベースで表した商品や資産の価格が継続的に下落する現象をいう。技術進歩や嗜好の変化による相対価格の変動ではなく、全ての商品全般にわたる価格低下であり、その原因は国内外のマネー要因にあると考えるのが常識だった。この点では、ミルトン・フリードマンが、デフレとは真逆のマクロ経済的病理であるインフレーションについて
Inflation is always and everywhere a monetary phenomenon.
(インフレーションは何時でも何処でも貨幣的現象である)
このように言ったとおり、日本のデフレーションの根本的原因も円やドル、ユーロ、元、ウォン・・・など各国のマネーサプライにある、つまりは各国中央銀行が採っている金融政策と市場との関連で理解するべき問題だ。

この点は当然すぎるほど当然の理解だと思うのだが、最近は日銀がどれほど頑張ってもデフレが解消しない。そんな状況からか、日銀が国債買取を増やしてベースマネーを供給すればデフレが解消するなどと考えるのは一知半解の虚妄であるとか、金融政策で現在のデフレが解決すると考えるほど、いまのデフレは単純なものではない、などなど。デフレの原因はマネーサプライ以外の実体経済に求めるべきであるという指摘が浸透してきているようだ。

本日の日本経済新聞には、邦銀で増加しつつある「不良債権予備軍」について報道されていた。
銀行融資のうち「不良債権予備軍」といえる貸し出しが全体の1割、44兆円規模に上ることが日銀の調査でわかった。2008年秋のリーマン・ショック後の中小企業金融円滑化法(返済猶予法)の導入などで不良債権化はしていないが、経営改善が遅れている企業が多いことを裏付けた。欧米銀に比べ、邦銀の財務は比較的健全とされるが、こうした企業の再生が課題となる。(玉木淳)(出所:日本経済新聞WEB版2011/10/10 2:34配信)
アメリカで懸念されているのは下げ止まらない住宅市場で返済能力が毀損されつつある家計部門である。日本のデフレが止まらなければ、返済能力が懸念される企業債務(=金融債権)が増加するのは当たり前である。デフレによって実質金利が高止まるとか、債権を保有しようとする経済主体より債務を負担しようとする経済主体の方が、事業を創造し、需要創出に貢献し、社会を進歩させていく確率が高いのだが - もちろん愚かな事業に着手する経営者もいる、確率でみないといけない - デフレはそうした前向きの動きを抑えてしまう、などデフレの害悪についての説明は様々にされているので、ここでは繰り返さない。

奇妙なのは円高によるデフレの説明を行なっておきながら、デフレの原因をマネーに求めない議論がすんなりと受け入れられることだ。為替レートは、各国の通貨の交換比率である。通貨の交換比率は、マネーサプライに対する通貨発行当局(=中央銀行)の姿勢によって決まってくるのは、単純な理屈である。日銀が現在とっている<超物価安定政策>が円の価値を保証していると海外から認められ、円の実質価値が低下する可能性が低いと思われているからこそ、ドルやユーロの信認性に疑念が高まった時に、円を保有しようとするのである。だから円は高くなるのである。

円の通貨価値を守る。

日本のデフレーションの真因の一つに日銀の超真面目な政策スタンスがあるのは否定できないと見ている。円の通貨価値がドルやユーロと同じ速度で毀損されても、その時はその時で、金というハードカレンシーを保有すれば財産保全としては十分安全である。

不換紙幣(=ペーパーマネー)は、それ自体に価値があるのではなく、マクロ経済をうまく運営するための単なるツールである。もしもハイパー・インフレーションを誘発しても - 貯蓄超過の低圧経済で純債権国でもある日本でハイパーインフレーションが近々起こるとは全く考えられないが - それを解決するための特効薬はわかっている(日銀は不手際の責任を追求されようが)。それより、円の通貨価値を守ろうとして、そのことにより海外の中央銀行の政策スタンスとの違いが目立ち、そのことで意味のない為替増価を招き、それが過渡的であるにもせよ企業全体の経営基盤をボラタイルにさせ、ひいては日本のマクロ経済を混乱させるのであれば、文字通りの本末転倒である。これこそ<王(=国民と企業)より飛車(=円)をかわいがり>と後の世に批評されても、金融当局は文句を言えまい。

デフレは決して逃げることのできない蟻地獄ではない。

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