2011年10月30日日曜日

日曜日の話し(10/30)

今朝は小生の家内が入院した兄を見舞うため実家のある松山に帰って行った。それでO駅まで車で送って行き、その帰途、大学に寄って只今校正中のゲラに書き足すところを執筆しているところだ。一応、産業連関分析に使う行列計算は補論として巻末に置いていたのだが、それより会話風・雑談風にして本の真ん中に置く方が面白いのではないかという編集側のアドバイスがあって、それはいいとなった次第。

その家内に付き合わされる形で韓流ドラマ「トンイ」を何日か前にDVDで見終わった。終盤は1日8話のペースだから仕事にも差し支えた。朝鮮王朝英祖王の生母である和敬淑嬪崔氏の生涯 ― というか、宿敵である張禧嬪が賜死されるまでの話 ― である。時代でいえば江戸期元禄から正徳、享保にかけての頃だ。トンイが主人公の名だが、最底辺の身分から最高位の王生母になったのだから、当時の人の目には奇跡そのものであったに違いない。ほとんど前半生は分かっていないようだから、ドラマは全てフィクションのはず。そもそも息子が王になり58年間在位しており、以後その系統が王位を継いでいるので、都合の悪い記録は抹消しているであろう。

視聴率も高かったようだから、見始めると満足度は高い。日本でもスリルあり、サスペンスありの大長編娯楽劇は作られていた。しかし、もうそれも難しくなったのかもしれない。長期間同じ作品に固定できる人材がそろわないということもあろうし、人材を固定するからにはヒットするかしないかというリスクを抱え込むから、それなりに高いギャラが必要だろう。つまりは人材難というよりコストだろうね。そう思う。それと関係者、出演者の志か・・・情けないようだが、背に腹は代えられぬ、だ。であれば、逆風をついて大河ドラマを毎年制作するNHKは本当に潤沢な資金を使えるのだろう。それとも独占的な交渉力があり比較的低いギャラで人材を活用できるのか。そう連想したりもするわけだ。

小生の感想は、ズバリ、一言。敵である張禧嬪が寵愛を失い、嫉妬に心を苛まれ、失ったものを回復しようと愚行を繰り返し、最後は死を与えられるのであるが、まあキザにいえば「愛の墓場に10年も放置すれば、どれほど可憐であった昔の恋人も鬼と化すだろう」。こりゃあ、男性の側の責任であるな。この時代を描いた作品では全て此方が主人公であったことは誠に頷ける次第だ。感想はこのように実に単純。

こんな話ならそれこそ無数にある。彫刻家ロダンと弟子カミーユ・クローデルとの不倫の恋はドラマよりも激しい。妻を捨てきれず、弟子との純愛を断念したロダンの煩悩を(小生ですらも)心に描くことができるのだが、クローデルのその後の人生は筆舌には尽くし難い哀れに満ちたものだ。トンイの張禧嬪は当の相手の男性から死を与えられたのだから、カミーユ・クローデルよりはいいか・・・。そんな風な感想も併せ持った次第だ。

こういう経験をすると、愛を捨てた方が逆に苦しい人生を歩むことになるかもしれない。ロダンといえば彫刻だが、彼の素描は中々味わい深いものである。ロダン美術館でもこう紹介している。
Although the works on paper can only be shown periodically, owing to their fragility, the role they played in Rodin’s art was by no means minor. As the sculptor himself said at the end of his life, “It’s very simple. My drawings are the key to my work,” (Benjamin, 1910).
ロダン、息子を抱く若い母、1900年以降


ロダンは1840年に生まれて1917年に死んでいるから、時代的には19世紀の人であり、モネ、ルノワールなどの印象派、セザンヌ、ゴッホなど後期印象派とも重なって活動した人だ。恋人であるカミーユ・クローデルの弟ポール・クローデルは外交官であり、1921年から27年まで駐日フランス大使として東京で暮らした。英米などアングロサクソン陣営のプレッシャの下、次第に外交的孤立を深める日本の立場には比較的同情的であったと伝えられており、「孤独な帝国日本の1920年代」は在職中の外交書簡である。クローデルは作家としても著名であり、 また時事評論にも卓越していた。ポール・クローデルの「大恐慌のアメリカ」は小生の読書予定リストに含まれている。

晩年、モントヴェルク精神病院に入院したカミーユ・クローデルを訪れる家族はポール・クローデルのみであったという。彼女が誰にもみとられることなく他界したのは1943年79歳である。彼女も「愛の墓場」を生きた人間の一人であったに違いない。

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