2011年9月16日金曜日

榊原元財務官は増税時期尚早論

二日続けて官僚論を書いてしまったが、「官僚論」なる話題、これ自体日本以外の国にもあるものだろうか?

そりゃまあ、レーガン大統領が就任間もない1981年に連邦政府職員である航空管制官組合がスト権なきストを敢行した際、ストに参加した職員を全員解雇し、代替職員を任用した、米国民はその強硬姿勢をこぞって支持した・・・そんな目を引くような事件でも起これば、官僚なり公務員が話題になることはある。

しかし、外国で政府与党の唱える基本方針に現場の官僚が異を唱えているとか、たとえば中国の閣僚が国務院と国務院の下部機関である民生部、財政部など、縦割り組織ごとに洗脳されて、政治家自体が財政族とか、民生族とか、国防族のように利害集団を形成しているだろうか?温家宝首相は▲▲畑出身だから▲▲部の官僚全体がバックにいるというようなニュースは絶えて聞いたことがない。

日本においても、江戸時代に大老や老中が、町奉行、勘定奉行といった玄人衆の縦割り組織に分断されて、業務範囲ごとに族をつくって対立した。そんなの聞いたことがありませんなあ。荻原重秀が一勘定奉行の身をもって老中すら一目をおく存在であったらしいが、それは個人としての信認であり、彼が率いる勘定奉行所エキスパート達が一大派閥を形成し幕府を壟断したわけではない。第一、荻原は失脚している。

官僚は、単なる事務執行担当職員である。英国でキャメロン首相が推進する財政再建に対して英国大蔵省次官が異論を唱えているとか、英国の内閣が親大蔵省、反大蔵省に色分けされているとか、オバマ大統領の基本方針に国務省の担当局長が反対論を述べているとか、(水面下の日常世界では色々あるだろうが)、こんなニュースは流れてこない。あったとしても、そもそも大したニュースではない。越権行為を行った職員が規則に基づいて処分されるだけのことである。これはビッグニュースにはなりえない理屈である。

ところが日本では<官僚>の存在がかくも大きい。奇妙である。それはやはり彼らの権力であろうと思う。だから、今日で三日も連チャンで、書くことになってしまったのだな。

与党民主党は選挙に勝利して政権交代を果たし、誰もが認めざるを得ない<正統性>を有していたのだから、何も事業仕分けなどを大々的にやってから、予算組み替えをしようなど、そんな下手な手順を踏むことなく、財務大臣が財務事務次官に与党の方針に沿った組み換えを命令すれば良かったのである。反対すれば幹部クラスを総入れ替えするべきだし、技術的にできないと言うなら出来るという別の職員と交代させればよいのである、というか、それが公約を国民から付託された新内閣の義務ではないかと思うのだがなあ・・・不思議だ。もちろん結果の責任は内閣がとらないといけないが。

× × ×

今日は昼まで会議があり、終わってから久しぶりに町まで坂を下り、いきつけの蕎麦屋に入った。なめこおろしを食べながら、朝日新聞をパラパラとめくる。すると榊原元財務官の談話が載っている。
恐慌とはいわないまでも、世界は同時不況の局面に入った、というのが私の認識だ。
アメリカでも33年の大底からニューディール政策によって回復して、その後37年にもう一度落ち込んでいる。
リーマン・ショック直後は新興国が世界経済を支えることもできたが、いまは金融緩和であふれたマネーが生んだバブルやインフレのせいで、それが難しくなっていることも問題だ。(中略)新興国は中期的には成長を続けるだろうが、米欧とのバトンタッチがうまくいかないために世界の危機は深刻化しそうだ。
先進国では金融機関が不良債権を抱え込み、マネーが事業投資に回らず、新興国では急速な需要膨張で賃金が上昇、物価に跳ね返り、不動産バブルも制御できなくなっている。このままでは新興国でバブル崩壊が起こり、新興国の金融機関が機能を停止するかもしれない。金鉱山でも見つかれば、金が世界に出回り、信認性あるマネーの拡大は各国の貯蓄積み増しへの動機を弱め、支出を刺激し、かくして世界の総需要がまた拡大するかもしれない。

しかし、金鉱山が見つかるチャンスは限りなくゼロに近い。
ドルは引き続き基軸通貨だが弱くなっていき、やがて通貨の「無極化」つまり混乱の時代に陥るのではないか。米国は積極的なドル安政策とまではいえないが、ゼロ金利継続に伴うドル安放置政策であり、欧州も信用不安と超低金利を背景にユーロ安が続くだろう。このため円相場は年末までに1ドル=70円台前半から60円台に上昇することも想定される。
(中略) 
国際通貨基金(IMF)や欧州中央銀行(ECB)などの国際機関があることが救いだ。大恐慌を防ぐために、たとえば世界的な公共事業の促進が、ひとつの解決策になる。(中略)まずは思い切って財政出動をやれというクルーグマン教授(米プリンストン大)の指摘は正しい。30年代と似てくれば、ケインズ政策しかない。各国が一斉に財政を引き締めたら共倒れになってしまう。 
アメリカ政府は国際通貨ドルを維持する意欲、能力ともに喪失したかのような様子である。国際通貨不在の状況が到来すると、世界の貿易は縮小の一途をたどり経済成長は困難になる。マイナス成長に陥る国が多数にのぼるだろう。ドルやユーロを市場に供給しても、ただ実物資産に変えるだけなのであれば、マネーは中央銀行に還流するだけ。生産活動を刺激するツールにはならない。世界が流動性の罠に落ちかかっているのだな。そこで国際機関の発行する国際通貨ではどうだ、と。本当に価値が保証されるのか・・・・?しかし、ドルやユーロよりは有効かもしれない。
日本も短期的には財政出動すべきだ。増税でそれをやれ、というのは間違いだ。中長期的にはもちろん、増税による財政再建をしなければならない。(中略)増税の時期は2014年か15年ごろでいい。
元財務官の頭の中には世界的ケインズ政策があるのか。出来るだけ早期に増税、ではなくて、3年後か4年後ですね、と言っている。本ブログで紹介したIMFレポートとは全く違う。

経済専門家の間でこんな違いは珍しくはない。何しろエコノミストが7人いれば8通りの意見が出てくるというのが経済専門家の世界だ。しかし、これでは普通の人は混乱してしまう。ここが臨床実験データがとれない経済学の最大の欠点であり、「このやり方がきくと思うんですよねえ」と、この程度の議論しかできない。困ったものである。必然的に<ギャンブル>になる。

ただ元財務官も中長期では絶対に増税が必要であると話している。財政再建は基本的に良いことである。そのプラス効果は国民にも広く及ぶ。ならば、善は急げ、と言うではないですか、とも言えそうだ。

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