2011年8月30日火曜日

政治家はそれほど増税を言い出しにくいのか?

野田佳彦氏が新首相に就くことになった。今日、明日の話題は幹事長や財務相、経産相、外相、官房長官などの要職に誰がつくかであろう。

今回の民主党代表選挙で目についたのは、増税の方向を明確に打ち出したのは野田氏ただ一人であり、他の候補は増税時期尚早、そもそも反対など、色々な理屈はあるにせよ、増税反対論を唱えていたことだ。

周知 ― ではないかもしれない。本当は周知であってほしいのだが ― かもしれないが、IMFは日本の増税が避けて通れない道であると、かねてから指摘している。昨年5月の時点で
Asked what tax rate would be necessary for fiscal reconstruction, James Gordon, senior adviser at the IMF's Asia and Pacific Department, replied that a rate of around 15 percent will give Japan an opportunity for success.(出所: The ASAHI SHIMBUN、2010年5月21日)
のように15%程度まで消費税率を引き上げるべきだと助言している。本年6月には、しっかりした調査レポート"Raising the Consumption Tax in Japan: Why, When, How?"を公開している。

ところが日本国内の政治家は、増税というと極めて慎重であり、待ったをかけるのが常である。このこと自体は、何も不思議ではなく、普通選挙によって国民から選ばれる政治家が、選ばれた後は臆面もなく増税路線を突っ走る、そんなことがあったら国民は大迷惑を被る。しかし、公的年金の収支バランスが維持不可能であることが誰の目にも明らかとなり、加えて今年3月の東日本大震災である。日本政府が破綻しても、日本国民の生活はこれまで通り続けられると思っているような国民は、極く少数のはずである。政府が破綻すれば、ギリシアのように公務員給与の引き下げが行われるばかりではなく、年金引き下げ、医療負担引き上げ、各種補助金カット、各種増税の実施が相次ぐことが必至である。大部分の国民の生活水準は確実に大幅に切り下がる。日本では国債が国内で消化されているから、償還される国債の裏側で、現金を受け取る国民もいる。しかし、デフォールト一歩手前の日本の国債に引き続き投資する人は誰もいないだろう。資金は100%国外に流出するのである。

こんな恐怖のシナリオが近づきつつある中で政治家は何故増税に拒否反応を示し続けるのだろうか?正直、こればかりは小生にも分からない。実際にマスメディアによる世論調査をみると、国民は増税もやむなしと考えているようだ。

朝日新聞社(2011年8月25、26日実施)
復興増税: 賛成51  反対37
復興増税: 賛成41  反対56
復興増税: 賛成53 反対38

同じ新聞社が近接した時点において、ほぼ同じ質問をしても、回答がかなり大きく違うことがあるようだ。回答者は1000人前後だから、サンプリングによる誤差の大きさは1.6%前後。最大誤差の目安は標準誤差の2倍、つまり3%程度までを見込んでおけば十分だ。ある時には、賛成が40%、別の時は50%という結果を示すのは、その時点、その時点で、世論自体が定まっていないことの証拠である。更に、ほぼ同一時点であるはずなのに、別の会社が調査することで大きく異なる結果が示されることもあるようだ。8月下旬に実施されている上の二つの結果はそれが言える。ま、いわゆる<世論調査>は、その時々に国民が政府に対して抱いている気持ちや、各社が回答者にどのような言葉で質問をしているかなど、細かな点に影響されてしまうものなのだ、その程度のデータとしてみておくのが適当である。

留保条件はあるにせよ、日頃の報道ぶりを思い出しても、半分程度の国民は今後の財政需要を賄うのに一定の増税を仕方がないと考えている。いまはそう見ても良いのではないか?少なくとも、支出を収入に合わせる(=小さい政府)、赤字を放置してもよい(=国債リスケ・交付公債など新管理政策)を国民が支持しているとは思いにくいのだ。

しかし、しかし・・・政治家は増税は不可だという。一体、いかなる理由で待ったをかけるのだろうか?それが、小生、とても面白く感じるのだ。

だってそうでしょう。ランダムサンプルで約半分が増税もよしと回答するのであれば、政治家の地元選挙区でも約半分の有権者は増税もやむなしと(本当は)考えている。そう思うのが素直な見方であろう。仮に、自分が増税を支持するポジションをとって、ライバルが増税に反対する意見を述べるなら、アメリカの茶会と一緒で歳出をカットしようと企む福祉カッターとして攻撃すればよい。福祉はカットしないというなら公共事業をカットする市場原理主義者として攻撃すればよい。それもしないというなら、ムダ削減と公務員給与カットだけで財政赤字を解決できると主張する無責任政治家として批判すればよいのである。世界トップの財政不健全度という錦の御旗があるのだから、増税反対によってこれだけ自分自身が攻撃されやすくなる選挙はないはずである。データは明瞭。半数の有権者は、まあまあリーズナブルな増税容認論に傾いているのである。

増税に言及してこそ、憂国の士。増税は不可と言えば、難しい説明責任を負うことになるのが、現在の政治経済的状況ではありませぬか?そんな状況で、なぜに日本の政治家は敢えて困難な<増税不可>を貫こうとするのか?現実に、増税路線をとる野田氏が勝利したにもかかわらず。

民主党が増税を提案した時、本当に自民党は増税反対を貫けるのか?貫けないでしょう。そんな反対の論陣を張ったら、自民党は従来のエネルギー戦略の誤りと一緒に、無責任な財政赤字放置論者として米紙、欧州紙から猛烈な批判を浴びること必定ではないか。

だから、小生にとっての政治家七不思議は、現在の国民的意識の下で、何故に日本の政治家は増税反対論に群れ集うのか?その誘因と真の目的を知りたいのである。イギリスのキャメロン首相が暴動が続発してもなお財政健全化路線を邁進する姿を見るにつけ、国民と政治家は正にオーナーと監督の関係。要するに「勝ってなんぼ」の世界、好機には敵を攻撃する。政治も同じではないかと感じるからである。

日本の政治家、というより民主党は、政治的に勝利する絶好のチャンスをみすみす逃し続けている。これが小生の現在の感想だ。

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