2011年7月23日土曜日

リンク集 ― ギリシア債務問題、手打ちとなる

エネルギー問題が話題のトップを占めてきたが、今週に入って債務問題がやって来ました。それも欧州とアメリカ、この2頭が猛然と仕掛けてきた。まずは欧州債務問題。こちらは、クラッシュせずに何とかどうやら、走りきったか。

日本も財政破綻寸前で、欧州・アメリカと同じ血統のはずだ、来てもいいはずだがなあ・・・と、1馬身遅れている。あれっ。そんな感じですね。日本は余り話題になっていない。国債残高対GDP比率では他を圧して日本が断トツであるのに、何故に世界は日本国を無視するのか?気に入らぬ。これは日本に住む国民として、怒るべきことなのか、安堵するべきことなのか?

とはいえ、国債の世界同時デフォールトが、本気で心配されていたのである。この辺の事情は

考えたくない世界同時国債デフォールト(真壁昭夫、ダイアモンド・オンライン)

先進国政府がドミノ式に次々に倒産していくなど甚だ怖い事態である。しかし、これって、日本=ガラパゴスの反証でもあるってこと、お分かりですか?

そもそも日本がガラパゴス的空間なら、製造業海外流出などを心配することもないわけで、閉ざされた島で、今までのまま安穏かつ幸福に生きられるのであります。それは不可能でしょ?日本が、勝手に進化を止められないからこそ、色々な経済問題がこの国に発生しているわけである。日本人が有能なのか、無能なのか、それが問われている。現実は単純明快で、真っすぐそう見ておけばよい。

欧州、アメリカなど海外では、債務問題に過剰に反応するという指摘はある。債券取引の現場のビジネスマンの感覚と経済学界の大御所の意見を挙げておく。

債務問題は欧米で過敏な反応、それに対して鈍感な日本(牛さん熊さんブログ)

Debt and Delusion(Robert Shiller, Project Syndicateから引用)

シラー氏が強調しているように、債務残高対GDP比率に何故意味があるのか?なぜ1年間の国民所得を分母にとるのか?四半期の所得をとれば比率は4倍になるだろう。4年間の所得をとれば4分の1になる。債務は1年で返済するわけでないのに、何故分母を1年にするのか?1年とは、太陽の周りを地球が一周する時間である。それが人類の経済活動とどう関係するのか、等々。債務比率を算出する時に論理的に適切な分母というのはないのである。ないにも関わらず、既存の債務対GDP比率が大事な数値であるかのように思われているのは、市場参加者が非合理であるからだ、というのがシラー氏の議論である。同氏は"Animal Spirit"を最近出版されており、資本主義の非合理性にかけては超一流の研究者である。その面目躍如たるコメントだ。

さて、現実に戻る。EUによるギリシア救済策取りまとめは、文字通りの難産だった。独立した国家連合なのだから仕方がないとはいえ、この混乱にはIMFも匙を投げたようだ。
 かくしてサーカスは進む。ユーロ圏の責任者たちは21日にブリュッセルに集まり、もう1000回目かと思えるようなギリシャ危機への議論を繰り返す。
欧州連合の欧州委員会、欧州中央銀行、国際通貨基金が共同で開いたアイルランドの財政再建に関する会見の会場に貼られた、反IMFのポスター(7月14日、ダブリン)=ロイター
前回よりかなり大規模なギリシャ向けの第2次金融支援を策定する見込みのサミット(首脳会議)に至る準備期間は、悲しいかな、無秩序で複雑な欧州の政策過程の典型だった。欧州中央銀行(ECB)はギリシャのソブリン債務の減額と何がデフォルト(債務不履行)に当たるのかを巡り、ユーロ圏の財務相たちと声高だが混乱した口論を続けた。
諦めと絶望感が入り混じった気持ちでその状況を眺めているのが、2010年5月のギリシャ救済当初に戦場に飛び降りてきた国際通貨基金(IMF)だ。
(出所)日本経済新聞WEB版、2011年7月21日7:00配信)
(出典)英フィナンシャル・タイムズ、2011年7月20日付 

ファイナンシャル・タイムズといえば、トリシェ欧州中央銀行(ECB)総裁へのインタビュー記録も資料として参照する価値がある。

Jean-Claude Trichet: Interview with the Financial Times Deutschland

まあ、混乱を経て最後には手打ちとなったわけで、下のロイター報道ではお茶を入れるメルケル独首相が写っている。ドイツも最後にはカネを出してくれるだろうという予想ではあったが、ヤレヤレという雰囲気が伝わってくる。

Germany, France reach accord on Greek bailout

メルケル首相は経済専門家ではないので背後で活躍した専門家がいるのではないか?誰でもそう感じるわけで、その辺は独紙"Rheinische Post"が報じている。

メルケル首相を動かした仕掛け人


財政経済顧問であるLars Hendrik Röller氏とNikolaus Meyer-Landrut氏である。

Merkels wichtige Berater: Nikolaus Meyer-Landrut und Lars Hendrik Röller (v.l.) Foto: dapd

ドイツの保守的大手メディアであるDie Weltには早速「ドイツの納税者にとっては、いくらの負担になるのや?」という試算が紹介されていた。

ギリシア救済のためにドイツ国民が負担する金額
Die Euro-Schuldenkrise konnte die deutschen Steuerzahler bis 2015 im schlimmsten Fall 70,8 Milliarden Euro kosten. Das ist das Ergebnis neuer Berechnungen zweier Okonomen des Deutschen Instituts fur Wirtschaftsforschung (DIW), wie die "Rheinische Post“ berichtet.
上のように、最悪の場合、2015年までに70.8(10億ユーロ)。円に直せば、7兆円前後に達する金額だ。いやあ、ギリシアの放漫財政のために、ドイツ人はよくもまあ7兆円もの身銭を切るものだ。ドイツはケチだと聞いていたが、小生、正直感心している。日本人は東アジア隣邦が困った時に、これだけのカネをポンと差し出すだろうか?

もちろん単なる善意ではなく、国家生存のための戦略ではあるのだが、やることに迫力があるではないか。

こういう混乱の中、債務の円滑な返済に欠かせぬ条件として挙げられるのが、まずは経済の成長戦略。これまた日本と世界の先進国は同じ船に乗っているわけである。そこで、予想はしていたし、小生も正直強い共感を持っているものの効力はそれほど期待できないだろうなあと弱気になってもいる、それは<賃金デフレを止めよ>である。

Global Minimumu Wage Policy(Thomas I. Palley, Financial Times, Economists' Forum)

石油、食料品などの輸入価格の変動を反映する消費者物価を物価安定の指標にするのでなく、国内の名目賃金の安定性を指標とするべきであると小生は思っている。思っているのだが、しかしこれって、賃金を抑制すれば激しいインフレーションを解決できるよね、という<所得政策>のデフレ版ではないか。インフレ抑制に所得政策の効果はなかったことは、歴史が証明している。だから、賃金を上げてやっても、おそらくデフレ解決の役には立たない。それはそうだ。しかし、そういう政策意識をもつことは大事ではないかなあ、と。それが小生の見方だ。

経済状況をどう見ているかについて海外に伝え、理解してもらう努力も欠かせない。この役回りは、最近どうやら日銀総裁になっていて、かつて政府内でスポークスマンとして役割を果たしていた「官庁エコノミスト」は姿を消しつつあるようだ。これまた、どことなく寂しさを感じないでもない。

日銀総裁BIS報告(2011年6月27日)原稿

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