2011年6月7日火曜日

TPPのプラスとマイナス

中野剛志「TPP亡国論」でも指摘されているように、現在参加を検討中のTPPは、実質的には日本の農産物市場の開放だ。製造業の関税率は、既に無視できるほどに低く、これ以上下げる余地はない。変更を迫られるとすれば、先ずは農産物の関税保護、それに種々の日本的商慣行である。

小生が住んでいる北海道は、地域食料自給率が約200%で、いわば「日本の食糧基地」になっている。では、日本がTPPに参加し、アメリカ、オーストラリアなどと完全貿易自由化に踏み切ったとすれば、何がどんな風に進行するだろうか?

この計算を小生の勤務先でベンチャービジネスを専門とする同僚がやってくれた。それを含めていま本を共同で書いているのだが、特にTPPが地域農業に与える影響をとりあげてみたい。

国内の農産物生産額に占める北海道のシェアだが、概算で牛肉が15%、小麦で60%、砂糖で80%、乳製品で50%である。もちろん、取引されている農産物は国内品のみでなく輸入農産物もある。上のシェアは国内生産に対するシェアである。

TPPに参加したとしよう。よく話題になるのは米だ。国産米はカリフォルニア米に勝てるのか?日本人が国産米を捨ててアメリカ米を選ぶとは思えない等々、米については既に色々な議論がある。しかし、北海道の農業に影響があるとすれば、寧ろ小麦や乳製品においてだろう。オーストラリアの生乳は高品質である。それがダイレクトに、ロングライフ牛乳で入ってきて、たちまちに日本の消費者をとらえるという事態は、ちょっと考えにくい。とはいえ、食品加工業の原料が国内生乳から輸入生乳に置き換わるという事態は高い確率で起こる。

輸入品に置き換わるのは、顧客にとってメリットがあるからである。つまりは輸入品を使うことで低コストを実現できる。付加価値を上げることができる。故に従業員に支払う給与、社の利益が増える。そうしたプラスの効果と国内農業に対するマイナスの効果を比較して参加を決めるのがTPPである。

産業連関分析で、仮に北海道から道外への農産物移出が半減する場合の影響が、どんな産業分野にどの程度現れるかを計算した。そうしたところ、畜産、酪農製品の生産は10%~20%の減少になる。農業にマイナスの影響が出るのは当然だが、同時に化学、紙、自動車、運輸、金融保険など、一見、農業とは無関係に思われる産業でも、9%ないし2%程度の需要減少が見込まれ、マイナスの影響は広い分野で現れてくる。需要の減少は、当然、それぞれの産業で行われる設備投資の減少を招く。これが私の同僚S氏が得た結果である。

輸入が増えて、投資需要が減る。これはTPPの負の面である。ではプラスの面はどこでどれほどあるのか?本当に韓国と国際競争力がイーブンになったからと言って、対米輸出数量は維持できるのか?そもそも製造業の対米輸出数量を維持したいがために、負の側面を耐えなければならないのか?これが国民の生活を豊かにする選択ということなのか?人と資本の投入先を農業からどこに移動させて国民の生活水準を上げようとしているのか?それを証明する数字はどこにあるのか?こうした議論が、本当は国会で喧々諤々展開されていなければならない。国会議員は政府にこれらを質問しなければならない。そのやりとりをマスメディアは報道しなければならない。議論をしないなら、しないというその点を批判しなければならない。

何を譲って、何を得るのか?

この経済問題は、エネルギー危機というもう一つの大問題を乗り越える方法を考える際にも、やはり論点になることである。TPP参加問題を解決できない国は、エネルギー危機を乗り越えるための議論にもやはり失敗するだろうことは間違いない。

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