2011年6月24日金曜日

景気は、踊り場、それとも下り坂ですか?

米FRBのバーナンキ議長が、現在のアメリカ景気がたどっている予想以上に遅い回復について、その理由が分からないと述べたよし。そういえば、グリーンスパン前議長も、住宅バブル防止を狙って、政策金利を引き上げ、短期金融市場を引き締め気味に調整しようとしたところ、案に相違して、長期金利が下がらず、これは異な事だ、「誠に謎である」と述べたものだ。2005年2月の議会証言における有名なGreenspan's Conundrumは、これである。最近のアメリカ経済を特徴付ける牛歩のごとき経済回復。これまたBernanke's Conundrumになるかもしれない。なるかもしれないが、今はまだはっきりした停滞ではないし、まして後退ではない。

株式市場は確かに下がっている。下の図はニューヨークDow Jonesの動きである。ch225に作成してもらった

株価は、昨年の夏場、年末、今年の春先に短期間低下しているが、今回の停滞は少し長期化しているようだ。実は、石油価格もピークアウトしたと論じられている。下が、ニューヨークの Light Crude Oilの値動きである。


この図は、TradingCharts.comに作成したもらった週次価格の推移だ。これをみると、短期・中期の移動平均線が上から長期移動平均線を割り込んでいる形になっている。こんなことは昨年夏以来のことであり、確かにこの1ヶ月の市況は弱いといえば弱い。

では、このままアメリカ経済、ひいては世界経済が悪化していくのかといえば、その判断は時期尚早である。というか、数字はそれほど悪くはない。

たとえばコンファレンスボードの先行指数(Leading Index)の動きをみると、6月時点でアメリカは0.8%のプラスで、実体経済全体としては、まだなお拡大しつつあると思われる。同じ判断は、6月14日にOECDから公表された別の先行指数をみても言えることである。更に、民間の経済予測機関であるe-forecasting.comの見方などは、もっと強気である。今年の春先に一時悪化した景気見通しが、今は回復している途上にある、という判断だ。コンファレンスボードの指数は権威があるが、専門家の判断が一致しているかといえばそうではない。アメリカ経済が、景気後退の入り口にさしかかっているという可能性はおろか、「何ヶ月か停滞するよね」という「踊り場」ですらもない。そんな判断も可能だし、現にそうみている人はいる。つまり、株価は来週にでも再び上昇を開始するかもしれない。その程度に見ておくのが、よいだろう。(無論、すべては確率の世界で語られるのであって、断言はできない)

現在の暗澹とした気分は、ギリシアのソブリンリスク(=国債危機)とEUの支援体制構築の遅れにある。体制作りが遅れているのは、何も福島第一原発による損害補償だけではないのである。そりゃあ、税金を投入するわけですから。すぐに結論が出るなんてこと、あるわけがないでしょう。それが現実である。切るべきなのに切れない、出しても死に金になることは分かっているのに出さざるをえない。しかも、そのカネは、元々、隣国、隣々国の国民の税金である。ま、後ろ向きの仕事は誰でも嫌なものであります。当然、気分はブルーになるわけであります。

アメリカよりも心配なのは、日本のほうだ。先程の、OECD資料をみれば、日本の数値がないことに気がつくはず。それは冒頭の説明にあるように、"Beause of the exceptional circumstances the country is facing, it is not possible to provide reliable estimates ",、まだなお状況はこうなのである。OECDに基礎情報を提供するのは日本政府である。つまりは、日本政府が日本の経済統計情報を出せないのである。言い換えると、日本全体の経済活動がいまどのような状態なのか、政府も正確なところ自信がない。これが現実だ。

本日の投稿で最初に紹介したアメリカのコンファレンスボードでは、各国経済についても先行指数(Leading Index)をまとめている。日本については、独自に基礎データを分析したのだろうか、6月時点でマイナス2.1%という数字を公表している。まだ足元の経済は悪化しつつあるという数字だ。基礎情報は、多分、6月現在のものなどないから、4月までの経済情報を使っているはずだ。小生はそうみている。

しばしば日本国内で話されているのは、「国内の生産体制は、6月までには復旧が完了し、7月からは順調に拡大していく見込みだ」、そういう明るい判断である。自動車メーカーも生産回復には自信があるという報道がある。何となく「大丈夫みたいだよな」といった心理が広がりつつある。

しかしながら、いまの日本の生産回復への自信は、数字の裏付けが明確にある、というものではない。一応、この点も頭に入れておいたほうがよい。

もちろん日本の景気動向指数は、日本政府(内閣府)がしっかりと(?)公表している。データは4月の速報結果がその後の追加情報で改訂された段階である。公表されているのは、今後の景気予測に使われる先行指数(Leading Index)の他に、現在の景気判断に利用される一致指数、景気循環の段階の確認に使われる遅行指数の三つがある。このうち先行指数と一致指数を図にしたのが下である。


本当は前月との差をとってポイント差でみた方が良いのだが、リーマンショックやら大震災で、ポイント差をとると地震計の針のように振りきれてしまう。無理にグラフ全体を描くと、目盛りが詰まって動きのない一本の線になる。それで指数の値そのままを使った。上がれば景気拡大、下がれば景気後退である。青い線が先行き、茶色の線が現在の状況だ。これをみると、直近である4月時点で、先行指数、一致指数とも相当低下してはいる。とはいえ、図全体からは、リーマンショックの波の大きさばかりが目につく。大震災の影響はよく分からない。本当なのかなあ・・・、もちろん政府もこれで実態を正しくとらえている、とは思っていないはずだ。で、OECDは日本の情報を載せていない。その話に戻るわけである。

今度、内閣府と政府の統計委員会が共済でシンポジウム「震災復興と統計―統計の果たすべき役割とは?」を開催するようだ。現状把握のための情報の大切さは日本政府にも痛切に理解されているようである。

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