2011年6月15日水曜日

「脱原発」の潮流は巨大な津波になるか?

イタリアの国民投票で脱原発が可決されベルルスコーニ首相も敗北を認めた。このところの一連の動きを石原自民党幹事長が「理解はできるが集団ヒステリー」という言葉で形容したことが、一部で批判されたりもしている。

4月19日号と言えば大分以前になるが、週刊エコノミストが「電気がない!」特集を組んでいたので、図書館でパラパラとめくってみた。関心を引いたのは「世界の原発計画への影響―原発は再び冬の時代へ」という記事だった。そこで欧州、新興国、米国と分けて、原発に対する政府の対応、世論の動きを整理してくれている。

その後の動きで分かっていることも加えながら、現状の覚書きとして、ここに記しておきたい。

【1】欧州

欧州は1986年のチェルノブイリ原発事故の経験があるから福島第一への反応も早かった。国民投票で脱原発を決めたイタリアも、そもそもチェルノブイリ後の87年に原発廃止を決定、稼働していた20基の原発は90年には全て閉じられた。そろそろいいかと思った矢先、福島で事故が起こったわけである。同時期に、英国もポーランドも原発新設を見送る決定をしている。欧州は、チェルノブイリの惨状を見て、原発に「待った」をかけたのだ。そんな流れの中で、再びFukushima Nuclear Accidentが勃発した。当の日本人の政治家がヒステリーと称するのはどうでしょうかねえ?

ドイツ:
3月15日。メルケル首相が、80年以前に稼働した老朽原子炉の3ヶ月間停止を指示。
その後、6月6日に脱原発を閣議決定したことは先日報道のとおり。

スイス:
3月14日。新設予定3基の審査凍結。
その後、5月25日に脱原発を閣議決定。

イタリア:
4月23日。新規原発審査を1年間凍結と決定。
その後、6月15日に国民投票を実施。脱原発を可決。

ブルガリア:
耐震性強化策の実施を決定

フランス:
サルコジ大統領「当面は、脱原発はありえない」と声明。

英国:
10基の新設計画。政府は「英国では政策変更の必要性なし」と主張。
直近(4月か?)の世論調査で「原発反対」が37%、支持の10%を大きくうわまった。

ポーランド:
原発導入計画があり。世論調査でも推進が65%、反対の35%を上回る。国民投票には応じると首相発言。

スウェーデン:
原発依存率5割。2009年に原発寿命延長を可決。

【2】新興国

最も原発建設に熱意をもっている。

中国:
3月16日。新規原発建設計画の審査・承認を一時停止。
第3世代原子炉は福島のような第2世代よりは格段に安全と政府説明。

イスラエル:
同国初の商業用原発計画を「再考する」と首相発言。

ベネズエラ:
原発計画を断念すると大統領が発言。

タイ:
原発計画凍結を決定。

トルコ:
原発計画を停止する考えはないと首相発言。

【3】米国

世界最大の104基が稼働中。原発依存率は20%。しかしスリーマイル島事故(1979年)から30年間、原発新設は凍結。オバマ大統領就任後から政策見直し。10年1月の大統領教書で原発再開を宣言。

福島後に実施された世論調査では、原発建設支持派が43%と大きく減少。「国民の安全のため責任ある対応が必要」と大統領がNRCに安全性見直しを指示。3月25日。NRCは、新設予定のボーグル原発2基について問題なしと発表。ゴーサインとなる。

【4】国際機関

OECD: グリア事務局長「原発は欧州の電力供給で重要な位置を占める」
IEA(国際エネルギー機関): 田中事務局長「地球温暖化対策のためには原発は不可欠」
IAEA(国際原子力機関): 天野事務局長「原子力発電は安定したエネルギー源」

ここまでの整理で抜け落ちているのはロシアだが、ロシアは再処理サービス込みの原発プラント輸出、エネルギー輸出を国策にしている。エネルギー立国である。一般に東欧諸国は、エネルギー面でロシア依存から脱したいという希望を本音ではもっているはず。国内原発建設を断念して脱原発に舵を切れるかどうか。フランスだって原発が好きなわけではない。エネルギー自給率上昇を目指す国家戦略に基づき、努力すること40年。その結果、現在の原発依存率8割という状況がある。

こうみてくると、原子力発電も国家の戦略そのものであることが分かる。太陽光など新エネルギー開発も一つの戦略。原発維持も一つの戦略である。いずれの戦略をとるかで、関連産業の盛衰、その国のエネルギー価格の高低、その国の産業構造、国民の就業構造、ライフスタイルに至るまで全てが影響を受ける。―― 小生はベンチャー好みだから、新エネルギーに賭けたいという気持ちが、あることはある。

こうした問題を解決するのに、自由な市場による解決が効率的(=速く正解をみつける)か、国家レベルの計画が効率的か、決して定かではない。一般的には、解決までの時間が重要であったり、個別活動の実行手順の前後によって結果の成否が強く影響される場合には、トップダウンの計画原理が分散処理型の市場原理に優越する、と言われている。しかし、エネルギー問題の解決には、非常に多くの情報を評価しないといけない。市場による解決に分があるとも考えられる。しかし不確実性が無視できない時は市場システムは駄目だ。均衡点が複数あると考えられる場合も市場は駄目だ。まあ、専門家だってこんな感じである。

で、国民投票となる。

政府の決定権限と、自由な参入と自由な販売を担保する市場経済。この二つの混合レシピが、今後将来のホットイシューになるだろう。

今度新しく作りなおす「新エネルギー戦略」は、政府にとって想像を絶する超難問になること間違いなし。詳しくもなく、知識もない内閣が、その時の思いつきで口を出しては台無しだ。と同時に、理念がなければ決められない。理念を指し示すのは政治家だ。ここでも政治哲学と行政技術の絶妙のレシピが求められている。

脱原発の潮流が、今後、巨大な津波になるほどの動機を各国が持っているとは思わない。それはそうなのだが、日本国がエネルギーをめぐって乱気流に突入する可能性は、決して無視できないと思っている。

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