2011年6月10日金曜日

5年前の『日経大予測』

今日ちょっと参照したいことがあって、本棚にある『日経大予測2007年版』を手にとった。刊行は2006年10月だから、いまから約5年前の予測になる。

パラパラとページをめくっている内に、予測とはいえ、ここまで大胆に言えるかという記述もあるし、5年もたって何も前進がないねえ。そんな話題も満載だ。

とにかくも予測屋という人たちは、言いっぱなしである。予測が外れても責任をとらない。植木等ではないが、予測屋は気楽な稼業と来たモンだ・・・・・かくいう小生の仕事もそれに該当していたが、ずいぶん昔に予測で飯をくう商売から足を洗ったから、いまはそうではない。

5年前には、こんな予測があった。

米経済の成長はどこまで持続するか?<予測59>
【本命】米経済は安定成長する
【対抗】原油高によるインフレで急減速する
【大穴】景気は潜在成長率を超えて拡大する

出版後の2007年は金融不安が意識され始めた年だ。リーマンショックは、2年後の秋。安定成長はちょっと正解とは言えますまい。しかし、まあ、原油高で急減速する確率に言及していたのはさすがだ。むしろアメリカの住宅バブル崩壊、サブプライムローンこそ、本筋ではありましたが、な。

こんな予測もあったのだなあと目を引いた。

デジタル素材の高収益神話はどこまで続くか?<予測32>
【本命】家電向けの好調が続き、自動車などにも市場拡大
【対抗】デジタル家電の失速や原油高で収益性低下
【大穴】韓国、台湾など海外化学メーカーが台頭

リーマンショックの到来が見えてなかった以上、2008年秋から2009年春までの落ち込みは予測できるはずもなかった。しかし、シリコンウエハーの信越化学や日東電工などの好調を聞くにつれ、日本の強みをちゃんと見ていたことがわかる。

まだある。「トヨタの販売台数世界一は実現するか?」、「世界市場で日本車の躍進続く!」。これは大当たり。「日中、日韓の摩擦は解消するか?」、「東シナ海や竹島をめぐり日中、日韓の確執続く!」。これは大当たり、というよりも全く進歩がないと言うべきだろう。

電力市場についての予測もあった。

電力市場の自由化、どこまで進むか?<予測34>
【本命】現状維持、大口市場だけの自由化が継続
【対抗】制度を一部変更、電力会社間での競争を促進
【大穴】全面自由化を導入、家庭用市場にも競争範囲が拡大

なぜ現状維持と予測していたのか?こんな説明が本文にある。
電力行政を担当する経済産業省は、2006年に発表した「新国家エネルギー戦略」で、発電電力量に占める原子力発電の割合を現在の20%台後半から、30~40%に高める方針を打ち出した。初期投資のかかる原子力発電所の建設をさらに進めるためには、電力会社に安定的な経営基盤が必要だ。さらなる競争で電力会社の経営体力を奪うことにつながる自由化拡大の方向性は打ち出しにくくなっている。

現在、原発事業を押し付けたのは国であり、その帰結である福島第一原発の事故についても主たる責任は国にある。そんな議論が一部にある。しかし、国は原発事業に力を注ぐ見返りに電力会社の利益確保に苦心していた。これもまた事実である。国は決定を下すだけであるが、自由化を回避するという路線の下で、競争の恩恵をうける機会を奪われるという形で、国民が日本の「エネルギー戦略」推進のコストを負担してきた。これは否定できない。

電力会社は国策の犠牲になったというのは、一面では当てはまる事実だが、すべてそうだというのは嘘である。5年前の予測を見ながら、そんなことを思いめぐらしたわけであります。

最後に次の予測をみた時には、笑いをこらえることができなかった。

安倍首相、長期政権へのハードルは参院選<予測47>
【本命】参院選で苦戦するも、かろうじて政権を維持
【対抗】参院選に勝利し、長期政権へ大きく前進
【大穴】参院選に大敗し、起死回生の衆院解散を決断

これは全く大外れとなりましたなあ・・・残念!!

概していうと、新聞社とは言うものの、大局にかかわる激変には弱いようだ。それは構造変化がもたらすものであって、いつかは到来すると全員の念頭にあるのだが、それが近い将来に起こるとは予想しない。それが中庸を得たビジネスマンの考えることだ。そう言われれば、それが間違いなのですというつもりはない。

しかし、現実はそうではないですよね。リスクは現実に起こりうるし、中庸を得た発想ばかりをしていると、なにもリスク管理はできない。「もっと合理的になれよ」という社内の決まり文句には、明らかに限界がある。そりゃ、中庸って奴は和を保つにはよいが、むしろ世を動かすのは、イノベーションであって、予想できなかった創造的破壊を完遂する人間が勝って、全部とる。それが勝利の方程式である。そうではないのか?

リーマンショック、大震災と続く激変の後で、誰が次の世界を牛耳るか?それは合理的に考える人間ではなく、ケインズの言う「動物的精神」、すなわちアニマル・スピリットを胸に抱いた人物であろう。

タイムカプセルから転がり落ちたような5年前の予測を見ながら、そんなことを今日は考えたのだ。

0 件のコメント: