2011年4月11日月曜日

不可逆変化と本当の不確実性

大震災の後、日本だけではなく世界の経済活動が想像以上の度合いで落ち込んでいる様子だ。

いずれ今月下旬から生産や販売に関する経済データが続々と出てくるだろう。そこで今後はどうなるかの予測が多数の関心を集めるだろう。

将来予測をする場合、可逆的変化と不可逆的変化の両方を識別しておくことが大事だ。

水が凍って氷になる、水が蒸発して水蒸気になる。状態が変化するが、温度が元に戻れば水も元の状態に戻る。そこには不確実性がない。

反対に、自然資源を使い尽くしてゼロになってしまった場合、元の状態には戻らない。ない状態をあらかじめ実験するわけにはいかない。そもそも、あらゆる生命存在は死から生に戻ることはない。一度失われば二度と取り戻すことはできない。過去の文化遺産も同様だ。ない状態について予測することは極めて困難だ。

大震災、津波、原発事故は文字通りの三大ショックだ。それらの負の効果は世界に波及していくのだが、その波及の仕方は平常時の波及の仕方とは違う。

一般に、景気変動は上昇する時よりも低下するときの方が急激だ。時にパニックになる。景気後退を演出するのは中央銀行や財政当局であると言われることも多いが、経済学ではむしろ労働力の供給制約による賃金上昇、自然資源制約による一次産品価格の上昇などを挙げることが多い。一口にいえば<成長の限界>があるということだ。

2008年にリーマンショックが世界を襲った。その背景に原油価格急騰があった。2011年は地震ショック、即ちJapan Shockだ。世界のサプライチェーンに亀裂が走った。

大きなショックは経済のありようを変えてしまう。とはいえ、こうした問題は<レジームスイッチング>と呼ばれるモデルを使えばまだしも分析可能である。経済活動には「正常な期間」、「異常な期間」あるいはもっとあってもよいのだが、それぞれの状態で社会経済はそれぞれの反応を示す。その様子を過去のデータから推測できるからである。

しかし、不可逆的な変化が起こりつつあるという認識も大事だ。原発事故をきっかけにエネルギー供給が慢性的に不足する。そうすると、エネルギー価格が高止まりして、グローバル規模で産業立地が再編成される。労働需要の変動は移民、移住のありようまで変え、地球上の文明を変えていくだろう。だからこそ、今回の震災と原発事故は日本だけではなく世界にとって大きな曲がり角になる可能性をもっている。そう観ているわけだ。

これまで日本の大問題は高齢化だと言われていた。確かに高齢化はうしろに押し戻すことができない。ゆっくりと進む経済的な津波である。しかし、今度の大震災と原発事故によって、世界がエネルギー制約の下で生きることになれば、あらゆる商品の相対価格が変わっていく。これは経済的な地盤(修正:地盤→地殻)変動であり、20年後の世界の経済地図は全く新しい映像になるだろうことは間違いない。

もどかしいのは、その将来地図を過去のデータから推測するための統計的技術がそれほど豊かにあるわけではない点である。もちろん投入が半分になれば産出も半分になる、という程度の計算であれば容易なことだ。予測を困難にするのは、原油価格ばかりではなく農産物価格までが想像を絶するほど上昇する状態を、これまでの統計的結果に基づいて予測することができない点である。困難は不可逆的変化と非線形性にある。

そもそも「こんな状況、人類は初めて経験するよね」という状況で経済がどんな風になるか?その予測は不可能なのだ。これが本当の<不確実性>である。

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